ヴェストラン(ノルウェー語: Vestlandet)は、ノルウェー南部の大西洋に面する地域であり、ムーレ・オ・ロムスダール県、ソグン・オ・フィヨーラネ県、ホルダラン県、ローガラン県から成る。アグデル、西テレマルク、ハリングダル、ヴァルドレス、グドブランド谷北部を含むこともある。
2014年の人口は約138.5万人。最大都市はベルゲン(27.8万人)で、2番目はスタヴァンゲル(13万人)である。この地域はデンマークやフェロー諸島、アイスランドと歴史的に深い繋がりを持ち、オランダやイギリスの影響も受けている。例えば、アイスランド馬とフョルド馬は近い種類である。また、アイスランド語とノルウェー方言も近い。
この地位から多くの移民がアメリカやカナダ、アイスランド、フェロー諸島、イギリスに渡った。特にアメリカのミネソタ州や北ダコタ州、ウィスコンシン州、モンタナ州、南ダコタ州に多い。
アイスランド人やフェロー人、ブリテン諸島の多くの人は、ヴァイキング時代に西部地域から移住したノース人やヴァイキングの子孫である。一方で、16世紀~17世紀に貿易の為に移住したオランダ人やドイツ人も、西部地域、特にベルゲンに何千人と住んでいる。
西部地域は失業率・公共セクター・生活保護受給者の割合が最低である。
ノルウェーの最も機能的な地域と捉えられている。
歴史
先史時代
ノルウェーの歴史は西部地域のローガラン県で始まった。
約1万年前、最終氷期が終わった頃の洞窟壁画が残っている。
また、石器時代の道具も発掘された。最古の集落はランダベルグやモルタヴィカの近くで発見された。
人類はデンマークとイングランドの間の北海に有ったドッガーランドから来たと考えられている。ドッガーランドはその後の海水面上昇に伴って消滅し、そこに住んでいた人類の一部が、今より小さかったノルウェー海溝を越え、鹿を追って新天地に到達した。
ヴァイキング時代
793年、ヴァイキングがイングランドのノーサンバーランドのリンディスファーン島を襲撃したのが、最古のヴァイキングの記録である。
900年頃、多くのグラティングが設置された。
グラティング法によってノルウェーは西欧と認められた。
1000年以前、鉄が導入され農業に用いられた結果、農地が足りなくなった。
同時代、王の権力が増し、多くの住民が重い税から逃れ新天地を目指した。
効率的な船と兵器によって、ヴァイキングはヨーロッパを恐れさせた。
ヴァイキングはヨーロッパだけでなく、東ローマ帝国やバグダッドのイスラム帝国とも貿易を行った。
1066年、イングランドで起きたスタンフォード・ブリッジの戦いでヴァイキング時代は終わった。ヴァイキングの耐航性と放浪癖の結果、新しい地域が開発された。
ノルウェー人はアイスランドやフェロー諸島、グリーンランド、シェトランド諸島、オークニー諸島、マン島、ヘブリディーズ諸島に入植した。
アイルランド南東部でダブリンやウォーターフォード、ウェックスフォードが設置された。イングランド北西部のカンブリアにも入植した。ヴィンランド(現在のアメリカ)をコロンブスより何百年も前に、ノルウェー人ヴァイキングは発見していた。
キリスト教化
11世紀、キリスト教(カトリック)はノルウェーで支配的な位置を得た。
東部地域にはドイツやフリースラント州(オランダ)からキリスト教が伝わったが、西部地域にはイングランドやスコットランド、アイルランド人、改宗したヴァイキングから伝わった。
13世紀、キリスト教が西部地域を制覇した事で、ノース教は滅びた。
沿岸部から内陸部に向けて布教は進んだ。
アイスランドへの移住
→詳細は「アイスランドの歴史」も参照
12世紀に書かれたLandnámabá(入植の書)に、最初の入植者が詳しく書かれている。
西部地域の船乗りが偶然この島を発見し、その後インゴールヴル・アルナルソンが最初に入植したと言われている。
彼は874年に家族と共にアイスランドに到着し、独立した。
彼は現在の首都のレイキャビクに農場を建てた。
続く60年間で、スカンジナビアのヴァイキングや、ブリテン諸島のノース人が入植した。
その為初期の住民はケルト文化を持っていた。
彼らは考古学的証拠をあまり残さなかったが、アイスランド語の中に多くの故郷の言葉を残していった。
現在のアイスランド人の60%は、西部地域出身者の子孫であると推定されている。
アメリカへの移住
→詳細は「ノルウェー系アメリカ人」も参照
80万人以上のノルウェー人がアメリカに移住した。
1825年7月4日、最初の移民団がスタヴァンゲルを出港した。
1837年、ホルダラン県の移民を乗せたÆgir号が、ベルゲンから初めて出港した。
1924年までにホルダラン県とソグン・オ・フィヨーラネ県から出港した9.6万人の名簿が残っている。
Jahn Sjursenが記録作成に大きく貢献した。
1997年、彼は収集物を公式に開館したばかりの移民センターに寄付した。
ベルゲン大学とベルゲン公文書館のHPでその記録が見られる。
センターの移民教会は、19世紀にノルウェーからの移民が建てたサージェント郡 (ノースダコタ州)のブランプトン・ルーテル教会である。
1908年7月1日、ブランプトン会が結成された。
1996年6月22日、ブランプトン会はブランプトン・ルーテル教会を移民センターに寄付した。
教会は解体され、スレッタでラドイからの有志が組み立てた。
1997年7月6日、ビョルグヴィン大司教区のOle Danholt Hagesæther司教が責任者となった。
地理
面積は5万8512km2で、ノルウェーの地域で3番目に大きい。北海をはさんでイギリスとフェロー諸島が西側、デンマークが南側に位置する。フェロー諸島から675km、シェトランド諸島のウンストから300km離れている。2万6592kmの海岸線を持つ。
南部はイェーレンと呼ばれ、ノルウェーの主要農業地域である。イェーレン以外のヴェストランの農地は小さい。ヴェストラン全体の農地は2650km2で、面積の5.3%を占める。
ヴェストランには高い山が多く、標高2000mを超えるソグネ・フィヨルドから10kmも離れていない。最高地点は標高2405mのストレンであり、ルステル市とアルダル市の間に有る。1876年7月21日にウィリアム・セシル・スリングスバイが初登頂した。
ヴェストランにはフィヨルドが多く、ハルダンゲル・フィヨルド、ボクナ・フィヨルド、ソグネ・フィヨルドが有る。ソグネ・フィヨルドは全長205kmでノルウェー最長である。世界でもグリーンランドのスコレスビー・サウンドに次いで長い。最奥にはソグン・オ・フィヨーラネ県のスキョルデン村が有る。ハルダンゲル・フィヨルドは内陸に70km切り込んでいる。
フィヨルドと壮大な山脈によって、ヴェストランは人気の観光地になった。
最南部のイェーレン平野を除いて、山岳地域で、ヨトゥンヘイメン山脈とハルダンゲル平野が最高地点である。
ヨーロッパ最大のヨステダール氷河は中北部に位置する。南部には小規模だがハルダンゲル氷帽やフォルゲフォンナ氷河が有る。多くの滝がフィヨルドに流れ込む。7姉妹滝やトカ峡谷、ヴォリングス滝が特に美しいと知られている。ギザギザの海岸線と何千もの島々が広がっている。
ムーレ・オ・ロムスダール県北部はトロンデラグに含まれる事が有る。
言語
ノルウェーのニーノシュク使用者の87%が西部地域に住んでいる。
しかし、住民の56%は都市で優勢なブークモールを用いる。
大都市の無いソグン・オ・フィヨーラネ県では97%がニーノシュクを用いる。
ムーレ・オ・ロムスダール県では54%、ホルダラン県では42%、ローガラン県では26%がニーノシュクを用いる。
多くの点で、ニーノシュクはブークモールよりアイスランド語に近い。
- ブークモール: Jeg kommer fra Norge. Jeg snakker norsk.
- ニーノシュク: Eg kjem frå Noreg. Eg talar norsk.
- オランダ語: Jeg kommer fra Norge. Jeg taler norsk.
- フェロー語: Eg komi frá Noreg. Eg tosi norskt.
- アイスランド語: Ég kem frá Noregi. Ég tala norsku.
- 英語: I come from Norway. I speak Norwegian.
- 日本語:私はノルウェー出身です。私はノルウェー語を話します。
宗教
- キリスト教:110万6180人
- ノルウェー国教会:105万559人
- その他の教会:5万5621人
- イスラム教:1万1655人
- 仏教:2452人
- バハイ教:1557人
- ユダヤ教・シク教:少数
他の地域よりも信仰が深い。
交通
航空
西部地域には26の空港が有る。15の空港が国営で、残りの11の空港が公団のアビノールが運営している。その内2つの空港は、年間利用者数が100万人を超える。
2007年には4108万9675人がノルウェーの空港を利用したが、その内1339万7458人が国際便である。
1960年代に地方路線が始まった。
主に大都市まで遠いソグン・オ・フィヨーラネ県で用いられる。
鉄道
主要路線は
- ベルゲン⇔ヴォス⇔オスロ
- スタヴァンゲル⇔クリスチャンサン⇔オスロ
- オンダルスネス⇔オスロ
ベルゲンではケーブルカーとLRTが運行している。
LRTを北イェーレンまで伸ばす計画も有る。
道路
欧州自動車道路のE39号線が西部地域を南北に貫く。(トロンハイム⇔オールボー)
E16号線はベルゲンとオスロを結び、途中のラルダールトンネルは世界最長(24.5km)である 。
国道・県道はノルウェー公営道路局が管理する 。
水運
フィヨルドや島では、自動車よりも高速船・水上バスが置く用いられる。
2007年には、ノルウェー全体で800万人の乗客が合計2.73億kmを船で移動した 。
フルティグルテンはベルゲン⇔キルケネスを大型船で結び、途中35ヶ所の港に寄る 。
国際線はベルゲンやスタヴァンゲルからイギリスやデンマークに向かう 。
エネルギー
ノルウェーの大陸棚で生産される石油や天然ガスは、パイプラインを通して本土やヨーロッパ諸国に送られる。
総延長は9,481kmである。
国営のガスコ社が全てのパイプラインを制御している。
2006年には、ヨーロッパの消費量の15%に当たる880億m3が輸送された。
自治体
西部地域には22の市・町が有る。
人口が1万人以上であるのは次の11市。
- ベルゲン:27.8万人
- スタヴァンゲル:13万人
- サンドネス:7.5万人
- オーレスン:4.5万人
- ハウゲスン:3.7万人
- モルデ:2.6万人
- クリスチャンスン:2.4万人
- ストルド:1.8万人
- エーゲルスン:1.3万人
- フェールデ:1.3万人
- ブリン:1.2万人
歴史的地域区分
歴史的地域区分は現在の行政区画とはあまり重ならない。
北から南に並べると次のようになる。
- 北モレ (伝統的に西部地域とは見做されない)
- ロムスダール (伝統的に西部地域と中部地域の境界である)
- 南モレ
- 北フィヨルド
- 南フィヨルド
- ソグン
- ヴォス
- 北ホルダラン
- 中ホルダラン
- 南ホルダラン
- ハルダンゲル
- ハウガラン
- ルフルケ
- イェーレン
- ダラネ
県
著名人
- レイフ・エリクソン(Leifur Eiríksson):赤毛のエイリークの息子、ヴァイキング。970年~1020年
- ルズヴィ・ホルベア(Ludvig Holberg):作家、エッセイスト、哲学者、歴史家、劇作家。1684年~1754年
- オーレ・ブル(Ole Borneman Bull):ヴァイオリン奏者・作曲家。1810年~1880年
- イーヴァル・オーセン(Ivar Aasen):言語学者。ニーノシュクを創った。1813年~1896年
- ビョルンスティエルネ・ビョルンソン(Bjørnstjerne Bjørnson):ノーベル文学賞受賞。1832年~1910年
- アルマウェル・ハンセン(Gerhard Henrick Armauer Hansen):癩菌を発見した医者。ハンセン病の由来。1841年~1912年
- エドヴァルド・グリーグ(Edvard Hagerup Grieg):作曲家。1843年~1907年
- アレクサンダー・ヒェラン(Alexander Lange Kielland):作家。1849年~1906年
- ジョー・ネスボ(Jo Nesbø):小説家。1960年~
- シセル(Sissel Kyrkjebø):歌手。1969年~
- トーレ・アンドレ・フロー(Tore André Flo):ノルウェー代表のサッカー選手。1973年~
- オーレ・グンナー・スールシャール(Ole Gunnar Solskjær):サッカー選手。1973年~
- ヴァルグ・ヴィーケネス(Varg Vikernes):音楽家、作家、殺人犯、元受刑者。1973年~
- カーリ・トロー(Kari Traa):ソルトレーク五輪(2002年)女子モーグル金メダル。1974年~
- ラーシュ・ビステル(Lars Bystøl):スキージャンプ選手。トリノオリンピック(2006年)ノーマルヒル個人金メダル。1978年~
- クルト・ニルセン(Kurt Erik Nilsen):歌手。1978年~
- アイリク・バッケ(Eirik Bakke):ノルウェー代表のサッカー選手。1979年~
- ヨン・アルネ・リーセ(John Arne Semundseth Riise):サッカー選手。1980年~
- セシリア・ブレークフス(Cecilia Braekhus):プロボクサー・キックボクサー。1981年~
- アレクサンドル・ダーレ・オーエン(Alexander Dale Oen):水泳選手。1985年~2010年
ギャラリー
脚注
参考資料
- Helle, Knut Vestlandets historie (Bergen, Norway: Vigmostad & Bjørke, 2006) ISBN 978-82-419-0400-4
外部リンク
- ウィキボヤージュには、ヴェストランに関する旅行情報があります。
- History of Iceland
- Western Norwegian Emigration Center
- Nærøyfjord and Geirangerfjord Unesco world heritage
- Fjords in Western Norway – Startpage




